純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「時雨、兄さん?」
心の中でだけ使っていた呼び方を初めて口にすると、彼は安堵したように微笑んだ。
どうやら兄は、以前から玉響の行方を探していたらしい。最近、私立探偵を始めた友人のおかげでここに辿り着いたのだという。
父親が玉響たちに金銭的な援助をしようとしていた矢先に行方がわからなくなり、申し訳ないことをしたと彼は謝ったが、玉響にはもう恨む気持ちなどなくすぐに許した。なにより、直接関係のない息子が謝る必要はない。
玉響も大人になったせいか自然に会話ができるようになっていて、二度目の再会では楽しいひとときを過ごせた。
時雨は、最初はただ妹が元気に生きているか確認できればそれでよかったようだが、玉響を気にかけてたびたび会いに来るようになっていた。客としてではなく、あくまで吉原の町中で偶然会ったという体で。
玉響なら身体の関係を持たずに客として招くこともできるが、彼に対してはそんな扱いをしたくなかったから。
父親の会社に勤め若くして役職者となっていた彼は、まるで貴族のように高貴な風貌で吉原にはそぐわない。一緒にいると嫌でも注目を浴びてしまう。