純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
しかし、玉響は「兄さんみたいな人がここにいると目立ってしょうがないよ」と文句をつけながらも、本当は彼が会いに来てくれることが嬉しくて仕方なかった。自分を〝玉紀〟と呼び続けてくれることも。
人目を忍んでふたりで光晶屋に入ったときも、玉響は子供のように胸を躍らせていた。
そこで見つけた、片羽の蝶のネクタイピン。彼のネクタイにあてがってみると、意外にも女性らしさはあまり感じず、とても洒落た雰囲気を醸し出している。
「これ、兄さんにあげたい」
「いいよ、金がもったいない」
「どうせ借金は山ほどあるんだもの、これくらい使ったって変わらないわ」
玉響は自虐的にそう言って笑い、彼の意見をよそに番頭に金を支払った。形あるものを贈ることで、自分の存在をいつも思い出してほしいという乙女心を抱きながら。
ところがその直後、なぜか時雨も番頭に金を渡している。
「じゃあ、玉紀にも」
「え?」
「揃いの簪があったから」
得意げに口角を上げる彼に差し出されたものは、同じく片羽の蝶を象った簪だった。
男からものをもらうのは、客以外では初めてだ。玉響の心臓が軽やかに飛び跳ね、驚きと喜びで喉がきゅっと締まり、なにも言えなくなってしまった。