純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
呆気に取られている玉響に、時雨は「つけてやろう」と言い、骨張った指で髪に触れる。それだけで体温が上がり、客との行為の最中よりもずっと鼓動が激しくなっていた。
髪に挿してもらい、「似合うよ」のひとことにも歓喜しつつ、ほんのり頬を染めた玉響はようやく口を開く。
「男が女に簪を贈るのには、〝あなたの髪を乱したい〟っていう意味があるのよ」
照れ隠しでもあるが、時雨がどんな反応をするかが気になり、意味深な言葉を口にした。彼は一瞬きょとんとして、面白そうに頷く。
「へえ、粋だな。でも俺は、妹にそんなことするつもりはないから安心しな」
邪気のない彼の笑みを見た瞬間、玉響は心が一気に冷えていく感覚を覚えた。
〝兄妹〟──その事実は当然心得ているし、彼になんの非もないのに、はっきり口にされると深く傷ついた。この関係は決して変わることはないのだと、改めて思い知らされる。
「わかってる」と無理やり口角を上げて明るく返したが、いつまでもそうしていられず、暗くなる表情を見せまいと顔を逸らした。
このとき、玉響は初めてちゃんと自覚したのだ。決して許されない、兄に恋をしていると──。