純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
数日後、玉響の部屋にやってきた瑛一は、小物入れにしまわれたままの簪を眺めていた。
「綺麗な蝶だね。君みたいだ」
瑛一は息をするように甘い台詞を吐く。その軽さは意外と嫌ではなく、玉響にとっては一番気の合う客である。馴染みとなったときにはすでに気心知れた仲となっていた。
この日も、初めて時雨以外の人に簪を見せ、自嘲気味の笑みを浮かべて本音を吐露している。
「馬鹿よね、ほんと。あの人は私を妹としか思っていないのに。こんなものもらっても、切なくなるだけなのに……」
簪はあの日以来一度も使っていない。身につけると頭が時雨のことばかりでいっぱいになってしまうので、こうして密かに保管してある。
以前から玉響に想い人がいると感づいていた瑛一は、彼女から本心を引き出し、その切ない想いにただただ寄り添っている。自分にだけ素を露わにする玉響が、いつしか放っておけなくなっていたのだ。
それは同情や愛情が入り交じった、単純に名前をつけて呼べるものではない複雑な感情だった。
瑛一は、儚げな表情をする玉響の肩を押し、寝具の上に優しく倒して覆い被さる。