純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「なにそれ」
「だって、自然体でいる姉さんが見られるのは瑛一さんといるときだけだから。姉さんをちゃんと想ってくれているんだなって嬉しくなるの」


 無邪気な笑顔を浮かべる彼女は、おそらく玉響と瑛一が恋仲だと思っている。

 そう勘違いしていてくれたほうが、玉響にとってはありがたい。半分血の繋がった異母兄を愛していると知られては、姉女郎としての面子が立たないだろう。


「……そうね。彼に会えてよかったと思うわ」


 瑛一に対してそう思っているのは本当なので、穏やかな表情で返した。睡蓮は嬉しそうに微笑み、目線を宙に浮かべる。


「姉さんが白無垢を着るところ見たいなぁ。絶対、世界で一番綺麗だから!」


 大袈裟な彼女は子供みたいに愛らしくて、玉響も破顔した。しかし、表情は徐々に憂いを帯びていく。

 その願いはきっと叶わない。廓から出られたとしても、自分が幸せな結婚をする想像すらできない。

 それよりも、花魁にするには忍びないほど純真無垢ないい子の睡蓮自身にその夢を叶えてほしくて、玉響は彼女の華奢な肩を抱く。


「あんたが着てくれれば十分だよ」


 もうひとりの家族である大切なこの子が、幸せな結婚をしてくれればそれでいい。心からそう思い、ふたりで寄り添いながら部屋に戻った。

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