純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
そのとき、彼はふとあることに気づき、団子の形にまとめた髪に手を回す。
「これは外したほうがいいな」
低く艶のある声で呟き、そっと髪から外したものは、手毬のような柄が可愛らしい一本軸の簪。睡が本当の姉のように慕っていた人からもらった、大切なものだ。
睡はそれを目にした瞬間、はっと我に返る。これまで散々男性との一夜の過ごし方を習ってきたというのに、なにひとつ実践できていない。
「ごめんなさい、私ったら……時雨さんに任せっきりにして」
骨が抜けたような状態になっていた背中をピンと伸ばして座り直し、申し訳なさそうに言った。思わぬ言葉を投げかけられた時雨は怪訝そうにする。
処女である女性を、男性が誘導するのは当然ではないだろうか。
「君は初めてだろう。すべて俺に委ねればいい」
「でも、〝あらゆる技法を駆使しなければ殿方を満足させられない〟と教えられてきたので……」
不安そうな顔をする彼女を見て、時雨は目をしばたたかせた。