純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
天命一途
夕闇が迫る街を、睡は肩で息をしながらひとり歩いていた。片方の足をかばってよたよたと歩く姿をすれ違う人が怪訝そうに見ているが、構わず進み続ける。
火事の騒ぎの混乱に乗じて、通行証を見せなくても大門を出ることができた。
廓に火をつけた者、おそらく遊女はそれが狙いで、足抜けするためにやったのだろう。そうやって吉原では何度も火事が起きているが、まさか今の時代で巻き込まれるとは。
そんな非常事態の中でも、睡の手にはしっかりと玉響の簪が握られている。先ほどの状況を思い返した彼女は、今になってぞっとする。
──四片と逃げ出そうとした際に落とした簪を拾った直後、「睡!」と呼ばれると同時に頭上から柱が落ちてきた。
一瞬もう駄目かと思ったが、咄嗟に四片が腕を引っ張ったことで身体が動き、間一髪で避けることができた。
しかし、右の足首辺りが柱の下敷きになり、すぐに抜け出せたが立とうとした瞬間に痛みが走る。
「うっ……」
「睡、大丈夫!? 掴まって」
今度は四片が睡の身体を支え、なんとか立たせる。幸い歩けないほどではなく、ふたりは無我夢中でその場から逃げ出したのだった。