純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「睡さんも四片さんも、本気の愛を貫く人は美しいですね」


 四片の恋愛事情も察している兼聡が、切なげな笑みを浮かべてそう呟いた。睡たちが気恥ずかしさで目を泳がせていると、彼はさらに続ける。


「俺も睡さんへの愛を貫こう──」
「それはやめときな」


 すかさず四片が深刻そうな顔になって制すると、兼聡は「途中で止めないでください」と口の端を引きつらせる。どうやらまだ続きがあるらしい。


「貫こうと思ったけど、少しずつ目線を変えていくことにします。俺の人生はまだ続くので」


 吹っ切れた様子の彼を見て、睡は申し訳なく思いつつも胸を撫で下ろした。

 先日、時雨と会ったときも敵対心を露わにしていたと聞いていたが、なんとか気持ちに折り合いをつけられそうなのだろう。

 自分を好きになってくれたことに改めて感謝すると共に、彼も素敵な出会いに恵まれてほしいと願う。


「ありがとう、兼聡さん。四片も、絶対幸せになってね」


 切実に伝える睡に、ふたりも穏やかに微笑み返した。

 病院の窓から見える梅の木には、寒さをじっと耐えた蕾が大きく膨らんでいる。百花の(さきがけ)が、春がすぐそこまできていることを知らせていた。


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