純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
さりげなく辺りを見回すと、二十代後半と三十代くらいの着飾った女性ふたりがグラスを片手に話し込んでいる。どちらも夫のパートナーとしてやってきた夫人仲間だろうか。
「でも社長って結婚したんでしょう」
「しかも吉原にいた花魁だったって噂よね。本当なら、ちょっと社長を見る目が変わるわ」
声を控えてはいるようだが、睡の耳はしっかり捉えてしまいぎくりとする。
「今見てもそれらしい人がいないし、連れてきていないのかしら」
「他の男に色目使われるかもしれないからじゃない? 花魁だったなら心配にもなるわよ」
蔑むような笑いをこぼすふたりに、睡の眉毛がぴくりと上がった。これは比較的最近気づいたのだが、花魁をけなされるとどうも黙っていられない性分らしい。
一度深呼吸をすると、背筋を伸ばして女性たちのもとへ歩み寄る。悪口を続けているふたりの前で足を止めると、彼女たちはきょとんとして口を閉ざした。
「こんばんは」
綺麗な笑みを作って会釈する睡を、彼女たちは品定めするように眺める。
「いつも主人がお世話になっております。九重の妻の睡と申します」
「……えっ!?」