純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
たった今話していたからなのか、はたまた想像していた花魁の印象とかけ離れているせいか、ふたりは心底驚いた様子で声を上げた。そして慌てて姿勢を正す。
「こっ、こ、こちらこそお世話になっております!」
「と、とてもお若くて可愛らしい奥様で驚きましたわ! ねぇ〜」
彼女たちは勢いよく頭を下げたあと、口元に手を当ててぎこちなく笑う。それとは対照的に、睡はまったく動じず微笑みを絶やさない。
そのとき、睡はふとあることに気づいて年上らしき女性に話しかける。
「間違っていたら申し訳ありませんが、お琴を弾かれますか?」
急に問いかけられた女性は、目をしばたたかせるも素直に頷く。
「ええ、最近趣味で始めたんです。どうしておわかりに?」
「失礼ながら、指に練習の跡が見えたので共感してしまって」
睡のひと言ではっとした女性は、自分の指先に目をやる。
確かに、中指と人差し指にうっすらと青痣ができていた。これは琴を弾くとき特有のものだ。
遊廓で琴を習っていた睡も同じ経験があり、昔を思い出して苦笑いする。