純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「私も習い始めたばかりの頃は、押し手の指が痛くて苦労しました」
「あら、あなたも? そうなのよねぇ、やっぱり慣れるしかないのかしら」
「慣れももちろん必要なんですが、ちょっとしたコツがあって……」
話し始めると、先ほどまで睡の陰口を叩いていたふたりから嫌味な雰囲気はなくなり、自然に会話が弾んでいた。
睡が夫人たちと話している姿を、時雨はやや離れたところで見つけた。なかなか戻ってこない彼女を心配して探していたのだ。
睡の明るさや愛嬌、話し方などは相手の心を解すような力があるのだろうと、遠目でもわかる。慣れない場でもすぐに順応する姿にも、時雨は改めて感心していた。
「睡」
呼ばれた睡が振り返ると、今日は一段と凛々しい社長の姿の時雨が微笑んでいる。
彼も夫人たちに挨拶をして、自然に睡の腰に手を回す。彼女たちも先ほどの陰口はどこへやら、すっかり上機嫌だ。
「遅ればせながら、ご結婚おめでとうございます。素敵な奥様ですわね」
「ありがとうございます」
礼を言った時雨は、わずかに苦笑を漏らす。