純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 九重は一度、睡蓮を観察するかのごとくじっと見つめた。本来なら花魁が客を品定めするはずなのに、真逆になっているように感じてならない。

 そして、他の者は必ず口にする花魁の美貌に対しての賛辞や甘い文句を贈ることもなく、普通に食事を始める。下心どころか自分への関心すらもあるとは思えず、睡蓮は内心戸惑った。


(なぜ私を指名したの? そもそも、なぜ遊郭に? これほど容姿端麗で財もある方なら自然に女性が寄ってくるだろうに……)


 顔を合わせるだけの初会ですら高額な金がいるのだから、ただの気まぐれでやってきたわけでもないだろう。かといって、これから馴染みになりそうな気配もない。

 男の目的はさっぱり読めず、涼しげな顔で品よく酒を嗜む姿を眺めながら、睡蓮は終始怪訝に思っていた。

 三味線の音と太鼓持ちの男の声ばかりが響く中、食事もひと通り済んだところで、九重はなにやら女将を呼んだ。その様子を、睡蓮は大きな黒目だけを動かして追う。


「九重様、どうなさいましたか?」


 さっと隣に膝をついた女将に、九重は初めてまともに口を開く。
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