純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「時雨さんは、出会ったときから私自身を見てくれていましたね。私も、あなたほど特別に感じた人は初めてでした」


 素敵な運命だったと今なら思える出会いが蘇り、自然に笑みがこぼれる。

 金で買われた睡の人生だが、願ってもない愛に満ち溢れていた。その世界に連れ出してくれた時雨には感謝しかない。

 永遠の愛を見つけた時雨も同じ気持ちなのだろう。


「俺と生きる道を選んでくれてありがとう。その選択は間違ってないと、一生証明し続けるから」


 頼もしい声や一直線に捉えるぶれない瞳から、彼の強い意志が伝わる。


「俺のそばで、幸せになれ」


 それは、睡の幸福の在り処はここなのだと示すひと言。胸に温かく沁み込んで、瞳が潤む。

 睡自身も揺るぎない想いを再確認し、「はい」と返事した直後、舞い落ちる花びらのような優しい口づけが降ってきた。


 きっともう、この幸せに罪悪感を覚えたりはしない。ここへたどり着くまでに手にしたもの、失ったもの、かけがえのないすべてを大切に胸に抱いて生きていく。

 愛を誓い合うふたりを映す窓の外で、一羽の蝶が青く澄み渡る空にひらひらと飛び立っていった。



< 240 / 247 >

この作品をシェア

pagetop