純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
【番外編】未来明々
水面に浮く睡蓮の花が見えるサンルームで、睡は長細い煙管の手入れをしていた。主を失くしてから長い間使われていなかったため、少々埃っぽくヤニも詰まってしまっている。
丁寧に汚れを取り除いてから煙管を人差し指の上に乗せ、親指と中指で挟んで持つ。それを日の光にかざすように持ち上げたとき、居間のほうから時雨がやってきた。
三十歳を過ぎても変わらず秀麗な彼は、お腹の大きな妻が煙管を手にしている姿を見て眉をひそめる。
「妊婦がなにをやっている」
なんだか懐かしく感じるひと言を投げかけられ、睡はぷっと噴き出した。
「吸うつもりはありませんよ、もちろん。部屋を片づけたついでに、姉さんの形見も綺麗にしていたんです」
煙管と、掃除用の布をひょいと持ち上げてみせる。時雨はそれをわかっていながら発言したらしく、ふっと軽く笑いをこぼした。
睡はあっという間にもうすぐ臨月となった腹に手を当て、以前も似た出来事があったなと記憶を蘇らせる。
「いつだったか、同じようなやり取りをしましたよね」
「ああ、君がここへ来たばかりの頃だろ」
「覚えていたんですか」