純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
何年か前の話なのに忘れずにいてくれたことが嬉しくて、睡の頬が緩んだ。
そばに歩み寄ってきた時雨も、膨らんだ腹にそっと手を重ねる。
「あのときは未成年だった君が、今は俺の妻で、母になるとはね」
感慨深げに言う彼に、睡も同じ気持ちでこくりと頷く。不安を抱えて煙管を弄っていたあのときからは、こんな未来はまったく想像できなかった。
妊娠してからも時雨は変わらず過保護で、常に睡の身体を気遣っている。
「いまだに着物で苦しくないか?」
「締めつけないようにしてるから大丈夫ですよ。でも赤ちゃんに押されて胃が苦しくて、あんまり食べられないのが残念」
「じゃあ、もう一気に大福五個はいけないな」
いたずらっぽく口角を上げる彼に、睡は頬を赤らめてむっとむくれた。
つわりが終わった頃の食欲はすさまじく、普通の大きさの大福五個をぺろりと平らげたことがあったのだ。時雨にも「君が大福になるぞ」と、からかうより若干心配された。
そんな少々恥ずかしい思い出も、順調に命が育っている証拠である。あとは何事もなく産まれてくることを願うだけ。