純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「幸せがまたひとつ増えるな」
「そうですね」


 時雨の優しい声に同意して頷き、睡は顔を上げる。微笑み合ったふたりは、どちらからともなく口づけを交わした。

 軽く触れるだけかと思いきや、時雨は舌を差し込んで艶めかしく口内を愛撫する。淫らな水音が響き、睡の呼吸も心拍数も乱れ始める。

 絡めた舌が唾液で繋がったまま離れ、互いに甘い吐息を漏らした。時雨の口は耳元に移動し、切なく官能的に囁く。


「早く帯を解いて、滅茶苦茶に愛したい」
「っ、そんな……」


 出産したあとも夫婦の営みが途絶えることはなさそうだ。むしろ、当分の間我慢を強いられている彼が禁欲から解放されたら、おそらくひと晩は寝かせてもらえない。


(まあ、一度経験済みだけど……)


 とろけそうな脳内に数年前のある一夜を過ぎらせ、抱き合って口づけを再開しようとした、そのとき。


「ただいまー!」


 玄関のドアが開くと同時に元気な声が響き、ふたりは丸くした目を見合わせてすっと身体を離した。

 軽やかな足音があっという間に近づいてくる。ものの数秒で、肩につくくらいの髪を揺らした少女が現れ、ふたりを見てくりっとした瞳を三日月のように細めた。
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