純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「この娘の借金はいくらだ? 現金はすでに外の車に積んである」
「はい?」
女将だけでなく座敷にいる皆が意味を理解できず、一様にキョトンとした。九重は睡蓮を一瞥し、そこはかとなく色気を帯びた声色で告げる。
「彼女……睡蓮を、私が身請けする」
しん、と静まり返ったあと、座敷中が一気にざわめいた。
花魁になる前の、新造のときに身請け話が持ち上がることは稀にある。ただし、何度かその遊女に会って気に入った場合の話で、まったくの初対面で身請けするなど前代未聞だ。
睡蓮はこれでもかと目を見開いたまま、なんの言葉も発することができない。女将もしばらく呆気に取られていたが、口の端を引きつらせてとりあえずの返事をする。
「ご、ご冗談を……」
「生憎、私は冗談が苦手だ。部下からももっと笑わせてほしいと言われる」
九重は表情を変えずに少しばかり茶化すが、身請け話は本気のようだ。女将にもそれは伝わったが、なにか裏があるのではと勘繰ってしまう。
「九重様はまだ初会でございます。会ったばかりで決められる理由をお聞かせ願いたいのですが」
真意を探る視線を向けられた九重は、再び睡蓮をまっすぐ見つめる。