純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
思わぬ意見に、睡蓮は目を見張った。
いつからか、自分は男性が己の欲求を満たすためだけにいる存在だと思っていた。自由も、意志も、感情も必要ない。ただ高い価値のある商品として自分を磨いていくのが花魁だと。
遊郭に入るのも、身請けも、極端に言えば人身売買のようなもので、自分に値段がつけられるのは当たり前の感覚だった。
(それなのに、この人は……)
これまで会った誰とも違う、特別な人。そうたしかに感じていると、女将の厳しい表情がみるみる緩み、穏やかな笑みが生まれる。
「そのお答えが聞けて安心しました。あなたは、睡蓮を人として扱ってくださるのですね」
その柔らかい声色を聞き、睡蓮はなぜ彼女が言い値で売るなどと言ったのかを理解した。
彼女は九重を試したのだ。睡蓮をぞんざいに扱わない人間かどうかを見極めるために。
女将の計らいに胸を打たれていると、彼女は上座のほうへ顔を向けて「睡蓮」と呼ぶ。
「あんたと、おさらばえのときが来たみたいだよ」
心なしか声に寂しさが交じっているような気がして、睡蓮は鼻の奥がツンと痛くなった。