純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
そしてここを出る前に、もうひとり別れを惜しむ人物のもとへ会いに行く。
昨夜は馴染みの客が来ていたはずだから、まだ眠っているかもしれない。そう思いつつ部屋の辺りまで来ると、中から新造の子が出てきた。
「おはよう。四片は?」
声をかけると、四片の妹女郎は申し訳なさそうに眉を下げる。
「すみません、睡蓮さん。姉さんは体調が優れなくて、誰にも会いたくないそうで……」
歯切れの悪い話しぶりからして、四片は自分と会うのを拒否しているのだろうと察した。睡蓮は肩を落とし、「そう……」と力無く呟く。
悲しみに襲われるが、睡蓮には彼女の気持ちもなんとなくわかった。ずっと支え合ってきた仲間が突然いなくなってしまうのだ。気持ちの整理もつかないだろうし、遊郭の外へ出られることへの羨望もあるだろう。
睡蓮は襖の外に膝をつき、中にいる彼女に向かって声をかける。
「四片……私、先に行ってるね」
返事はない。それでも話し続ける。
「突然こんなことになって、一緒にいられなくて申し訳ないと思ってる。でも、会えるまで待ってるから」