純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「昨日よりも、今の君のほうがいい」


 思いがけない言葉がかけられ、睡蓮はそろりと目線を上げる。昨日と同様に胸が鳴るのを感じたが、それはつかの間だった。


「花魁は苦手だ」


 どことなく暗い声色で続けられたひとことに、表情が強張る。

 苦手ならなぜ今こんなことをしているのか、ますます疑問だ。昨夜『ひと目惚れ』と言ったのも出まかせだったのだろう。睡蓮の心の温度がみるみる下がっていく。


「……やっぱり昨日の発言はでたらめだったのですね。冗談も苦手だったはずでは?」
「『冗談は苦手』という冗談を言ったつもりだ」


 九重があっさりと屁理屈を返したので、睡蓮は呆れて憮然とした。この男は紳士的なのか横暴なのか、それすらも把握できない。


「じゃあ、なぜ私を身請けしたのですか?」


 少しだけ歩調を速めて彼の隣に並び、やきもきしながら問いかける。話すのに気を取られている間に、一度も越えたことがなかった大門の外へ足を踏み出していた。

 そこには立派な車が停まっており、九重の姿を見ると運転手がわざわざドアを開ける。彼は「中で話そう」と言い、睡蓮の背中にそっと手を当てて促した。
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