純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「だから源氏名は睡蓮だったんだな」
「はい、女将がつけてくれました。わざわざ〝ねむる〟なんて意味の一文字にしなくても、本名も睡蓮でよかったのに……変な両親ですよね」


 口ではそう言ったものの、おそらく睡蓮と名付けるには贅沢だから一文字取ったとか、そんなところだろうと思っている。貧しい家庭で育った自分にはこれがお似合いだ、とも。

 睡の生みの親は幼い頃に離縁しており、母親も七歳のときに病で亡くなった。身の周りに〝死〟がつきまとうせいで、名前も不吉な気がして仕方ない。

 ところが、九重からは意外な意見が飛び出す。


「睡蓮の花は夕方閉じることから〝睡〟という名がつけられているんだろう。君の名前も同じだと考えれば洒落ているじゃないか。それに、眠るのは生きるために必要なことで、別に悪いことではない」


 淡々と語られたのは睡が一度も考えつかなかったもので、目から鱗だった。彼のように考えれば、そこまで悪い気はしない。


「そんなに前向きな解釈をした方は初めてです。ありがとうございます」


 睡は温かさを取り戻した笑みを浮かべて礼を言った。少しだけ救われた気持ちになり、この男はわりといい人なのかもしれないと、単純に思ってしまう。
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