純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 それにしても、雑草のようにひっそりと生きてきた自分の存在だけでなく、名前までも知っていたとは。


「よく私の名前をご存じでしたね」
「君を捜して連れてくるように言われていたんだ」


 新たな事実が明かされ、睡は眉をひそめた。一体誰が自分などに用があるというのか。

 九重は前方の揺れる車窓に目を向け、ようやく身請けの事情を話しだす。


「私は〝心英社(しんえいしゃ)〟という紡績会社を経営しているんだが、共同開発のためにとある社長と密約を交わしていてね」
「とある社長?」
「ああ。彼が持つ北陸の繊維工場や技術者を、心英社に一部譲渡してもらう計画がある。そのための条件が、人買いにさらわれてしまった愛娘を連れ戻すことだった」


 ──北陸の繊維工場、人買いにさらわれた愛娘。

 その言葉が睡の脳内で線で結ばれ、たったひとり思い当たる人物が蘇る。これまで無理やり消していた男の顔が。


「峯村 哲夫(てつお)は、君の義理の父親なんだろう」


 名前を聞き、睡の背筋が凍った。
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