純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 母親は亡くなる一年ほど前に、哲夫と再婚していた。母が生きている間は睡を〝普通に〟可愛がっていて、いい父親だという印象を周囲も抱いていた。

 しかし、母親が亡くなり父子家庭となった頃から、哲夫の愛情が歪み始めた。

 睡にフランス人形のようなドレスを着せ、暇があれば髪を撫でる。最初は嬉しかった睡も、次第に違和感を覚えていった。

 母が残した道具で下手な化粧をされ、椅子に座ったまま動いてはいけないと言われる。それは徐々に過度になっていき、『お人形は食べたり歩いたりしないだろう』と、いつしか食べ物も与えられず、部屋から一歩も出してもらえなくなった。

 哲夫は、睡を本物の人形のごとく愛でたいという、過度な人形偏愛症となってしまったのである。

 人買いにさらわれたというのは、半分間違っている。無理やり連れて行かれたわけではないからだ。

 衰弱した身体でなんとか隙を見て逃げ出し、あてもなくさ迷っていたところを女衒(ぜげん)が見つけた。『遊郭に来ればもう少しましな生活ができるよ』と言われ、断る気など起きなかった。

 とはいえ、そのときは主に精神的な原因で喋ることすらままならなかったのだが。
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