純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
生き地獄のような生活から抜け出せるなら、遊郭でもどこでもいい。それが遠く離れた東京なら、なおさら好条件だった。
これで二度と会うまいと思っていたのに、まさか仕事を利用して九重に連れ戻させるとは。
絶望の表情を浮かべる睡だが、九重は本当の事情など知らない。生き別れになった気の毒な親子を再会させてあげようとしているだけだ。
「ずっと行方がわからなくて、相当心配していたようだぞ。君たちが暮らしていたのは富山だから、吉原の遊郭までは調べられなかったんだろう。私がこちらで捜したら、わりと苦労せず見つけられたよ。君の噂が立っていたから」
〝噂〟と聞いて、睡はぎくりとする。
「峯村社長から、名前だけでなく君の特徴も教えてもらっていたんだ。背中に蝶のような──」
「やめて!」
思わず声を上げ、九重の言葉を遮った。彼は目を見張り、口をつぐむ。
〝睡蓮という花魁は、背中に珍しく美しい蝶の形をした痣がある〟
その噂自体は流れていても構わないが、哲夫が絡むと嫌悪に変わる。痣を見せるよう命じられて肌をさらすのが、なにより嫌だった。
背中の痣に直に触れる、生温かい指。耳元で『可愛いなぁ』と囁く、ねっとりと絡みつくような声。鮮明に蘇るそれを振り切りたくて、両手で耳を塞ぐ。