純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「やめて、ください……あの人には絶対に会いたくない。思い出したくもない……!」
声も身体も震わせ、青ざめた顔をする睡を見て、九重はただ事ではないと感じ取る。
哲夫の話を聞いた限り、よき父親として娘に会いたがっている印象を受けていた九重は、怪訝さを滲ませる。
「社長は心底君を取り戻したいようだったが?」
「それは……私を閉じ込めておきたいからです。誰の目にも触れないように、自分だけの人形になるように……。私は、その生活から逃げて遊郭に入ったんです」
怯えた様子で話す睡が真意を話しているかどうか、見極めるようにじっと見つめたあと、九重は面倒そうなため息を吐き出す。
「……参ったな。厄介事に片足を突っ込んでしまったらしい」
彼はシートに背中をもたれ、難しい顔をして額に軽く手を当てた。
このまま、あの男のもとへ連れられて行ってしまうのだろうか。睡は不安で押し潰されそうになり、自分で自分の身体を抱き、腕をぐっと掴んだ。
しばらくして車が停まり、睡は恐る恐る窓の向こうに目をやる。そこには立派な門があり、少し離れた場所に洋館のような白い外壁の建物が見えた。