純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
こちらに向けている背中に向かって、思い切って口を開く。
「旦那様、つれないではありませんか。私の煙管を受け取ってくださったのに」
「……は?」
ゆったりとした色気のある口調で、睡が急にそんなことを言うので、時雨はおかしな顔をして振り向いた。
初めて見る彼の戸惑う様子に、睡は意外にも好奇心を突かれる。今度は自分が意地悪を仕返してやりたい、と。
布団をめくり彼の隣に身体を滑り込ませると、腕にそっと触れてとろけるような笑みを浮かべる。
「私も旦那様とこうしたいと夢見ていたのですよ。意地悪はよしてくださいな」
甘えた声を蜂蜜のように絡ませる睡を、時雨はじっと見つめて固まっている。
やればできるではないかと自画自賛すると同時に、余裕綽々の彼も少しは動揺しただろうかと、睡は内心しめしめとほくそ笑んだ。
しかしいつまでも続けられないので、ふっと力を抜き、作っていた営業用の笑みから素の表情に戻る。
「なんて、お客様になった気分は──」
〝いかがでしたか?〟と聞こうとした瞬間、視界が反転した。