純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
ベッドの上に長い髪が散らばって広がり、着物の裾から素足が覗く。見開いた瞳には、暗い天井を背景に前髪が垂れた色男が映った。
「ならば、遠慮なく君を抱こう」
糖度が増した低い声が響き、骨張った手が髪を優しく撫でる。
「え、あの、ちょっと……!」
まさか本気なのかと、睡は目を白黒させた。身体は押し倒されたまま動かないが、心臓は激しく暴れている。
あたふたしているうちに伏し目がちの美しい顔が近づいてきて、思わずぎゅっと目を瞑った。
数秒後、くぐもった笑い声が聞こえてくる。恐る恐る片目を開けてみると時雨がおかしそうに喉を鳴らしているので、睡は一気に憮然とする。
「花魁ごっこに付き合ってみただけだ。やはり君は遊郭を出て正解だったな」
「なっ……!」
「でも惜しかったよ。少しそそられた」
時雨は意味深に口角を上げたあと、身体を離して再び布団にもぐり込んだ。睡は湯気が出そうなほど真っ赤な顔を両手で覆い、声にならない声を出して悶える。
ひと泡吹かそうとしたつもりが、あっさりとやり返されてしまった。しかも、この上なく心臓がバクバクと音を立てている。