純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「あっ、あ……時雨さ……」


 睡は手の甲を口に当て、与えられる初めての快感に身をよじって耐える。時雨は一旦愛撫をやめて彼女の頭を撫で、優しく微笑んだ。


「俺はもう満足している。君を抱いて、君の目に俺だけが映っているのを感じられるのだから。十分すぎる」


 偽りのない言葉と満たされた笑みは、不安で強張った心を溶かしていく。薄めで形のいい唇を寄せられ、睡は潤んだ瞳を閉じた。

 ──姉さん、私、幸せになっていいんだよね?

 同じ境遇にいた大切な人の姿を脳裏に過らせ、確認するように心の中で問いかける。

 幼い頃から家庭環境に恵まれず、〝幸せ〟というものがなんなのかわからなかった。形も定義もなく、あやふやで儚いそれを、自分には手に入れられるとも思えなかった。

 けれど、今は確かに感じる。この彼がすべてを包み込んで、温かな幸福を与えてくれるのだと。

 手放したくない気持ちを込めて、逞しい背中にしっかりと手を回す。滾る欲望に貫かれた瞬間の、破瓜(はか)の痛みすらも愛しさに変わる。

 ひとりの女として愛される初めての喜びに浸りながら、睡は無意識に何度も名前を呼び、夢中で彼の熱を受け止めた。


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