純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 そこで時雨は共同開発の話を持ちかけ、技術者と工場の一部を譲渡してほしいと哲夫に交渉した。そうして譲り渡す条件として出されたのが、睡を連れ戻すことだったのである。

 警察にもかけ合ったが娘の行方はわからずじまいで、他に捜す術も伝手もなく途方に暮れていたという。

 正直かなり面倒だし変わった要求をするものだと思ったが、金よりも娘が必要だと、今にも泣きだしそうな顔で必死に頼み込む彼の姿を見て、ひとまず可能な範囲で調べてみることにした。

 時雨には、私立探偵として働く同い年の友人、(いばら)がいる。学生時代からの付き合いの彼は非常に有能であり信頼度も高く、社内犯罪の有無や取引先に不審な動きがないかなどを調査してもらうことがある。

 睡の行方捜しも彼に頼んだところ、驚くほど早くに発見した。……といっても、その件に関しては彼がたまたま睡蓮の噂を知っていたからで、特に有能さは関係なかったのだが。

 日本橋にある本社ビルに出社した時雨は、社長室で書類を確認しながら茨を待っていた。昨日のうちに連絡を取り、ここへ来るように言っておいたのである。
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