純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
しばらくして、着物にとんびの形をしたコートを羽織った茨が約束通りにやってきた。
カンカン帽の下には若干だらしなく伸びた癖のある髪、口元にはうっすらと髭が覗くが、それすらも洒落て見えるのは彼の男前な顔立ちのおかげだろう。
陽気な茨はニカッと愛嬌のある笑顔を見せ、ひらりと片手を挙げる。
「よぉ、時雨。今日も冷たい顔してんなー」
「生まれつきだ」
お決まりのやり取りをして、茨は当たり前のように応接用のソファに座る。時雨も棚からいろいろな種類の駄菓子が詰まった入れ物を取り出し、テーブルにどんと置いた。
これは茨専用のお茶請けだ。昔から駄菓子が好きだったり、見た目に似合わず酒に弱かったりと、お子ちゃまのようなところも愛嬌のひとつだと時雨は思っている。
茶はそのうち部下が届けてくれるので、そちらは任せて時雨も向かいに腰を下ろした。茨はさっそく串が刺さったカステラを選び、封を開けながら言う。
「また社内調査?」
「いや、今回は仕事はあまり関係ないが早急に頼みたいんだ。報酬は弾む」
「お、てことは結構重要な案件か」
茨はぴくりと眉を上げ、カステラを咥えて身を乗り出した。