純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
茨は真剣な時雨の様子をじっと見て、話を引き受ける価値はありそうだと直感し、ゆっくり頷く。
「ふーん……。で、その峯村はどこにいるんだっけ?」
「富山」
「遠いな!」
間髪入れずに、茨は驚きの声を上げてのけ反った。
東京から北陸方面までは鉄道は繋がっておらず、乗り換えやバスを駆使して向かわなければならないため容易ではない。
「お前、北陸なんて行くだけで半日近くかかるぞ。そもそも俺が対応可能な地域は関東なんですけど」
「まあ旅行だと思ってくれ。行き方はちゃんと教えるし、俺もあとから行くから」
涼しげな顔で手帳と万年筆を取り出す時雨に、眉根を寄せた茨はカステラの串を突き出して乱心する。
「なぁにが旅行だ! 人から強制された旅行なんざ御免だね」
「金は出すって言ってるだろ」
「だからそーいう問題じゃ……」
「お前なら移動も含め三日もあればなにかしらの情報は掴めると思うが、なるべく急ぎで頼む。なにかわかったら逐一報告」
「聞いちゃいねぇ!」
茨は再びのけ反って天を仰いだ。