純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
時雨は移動方法を手控えながら、思考を巡らせる。
哲夫のもとへ行かないなら、睡はこれからひとりで生きていかなければならない。そのための手助けもしてやるつもりだが、哲夫の一件が収まるまでは具体的な考えはまとまらない。
書き終えるとその面を一枚破り、哲夫の名刺と一緒に差し出す。
「それについては峯村を調べてからだ。この仕事は茨にしか任せられない。頼んだぞ」
真剣な眼差しを向けられた茨は、徐々に迷いが消えていく。時雨は相手の損になるような取引はしない男だし、なんだかんだ言いつつ孤高の嗣子に信頼されるのは嬉しくもあるのだ。
茨は一度くしゃくしゃと頭を掻き、帽子を被り直して手控えと名刺を受け取る。
「ったく、わかったよ。ちゃんといつでも電話に出られるようにしておけよ」
「なるべくそうする」
「あと、今度そのお茶請けに寒天ゼリーも入れといて」
「はいはい」
相変わらず〝子供か〟と言いたくなるような茨の要求に笑いつつ、無茶な頼みも引き受けてくれる彼に時雨は感謝していた。