純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
次第に顔が青ざめていく彼を冷ややかな目で見ながら、ソファに背中を預けて腕を組む。
「まんまと騙されましたよ。あなたは下手な役者よりずっと演技派だ」
「……なんのことです?」
目を合わせずしらを切ろうとする姿に若干の苛立ちを覚えつつ、率直に物申す。
「娘さんからあなたとの昔の生活ぶりをお聞きしました。監禁状態で食事もさせてもらえず、衰弱した身体で命からがら逃げ出したと。あなたの名前を出した途端、ずいぶん怯えた様子になっていました」
哲夫に対してひとつ疑問なのは、父のもとへ行くと知らされた娘に嫌がられるのは予想しなかったのか、ということ。
考えられるのは、時雨が事業のために有無を言わさず連れてくると踏んだか、もしくは睡が哲夫への恐怖心から言いなりになるだろうと高を括っていたか。どちらにせよ浅はかであるし、大外れだ。
時雨が先鋭な視線を向けて反応を窺うが、哲夫はいくらか冷静になってきたらしく、ふっと笑い飛ばす。
「そんなのはデタラメですよ。きっと人買いにさらわれたあと、そうやって酷い扱いを受けたせいで記憶が曖昧なんでしょう。かわいそうに」