純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 今の言葉は、おそらくこうやって責められたときのために用意していた文句なのだろう。白々しい嘘を吐くこの男に虫唾が走り、時雨の表情は徐々に険しくなっていく。

 無意識に睨みつけていると、哲夫は痺れを切らしたようにテーブルを握った手でドンと叩き、声を荒らげる。


「見つけたのなら早く渡してください。九重さんに渋る理由はなにもないでしょう? 私の大事なひとり娘ですぞ!?」


 最後のひとことにぴくりと反応した時雨は、わざとらしく首を傾げてみせる。


「ひとり? 複数人の間違いでは?」


 哲夫は意表を突かれたように目を丸くして押し黙った。


「あなたが所有している山奥の別荘にも、何人かの少女がいるそうですね。身寄りのない子を引き取って幽閉し、自分の思うがままにしていたとか、そんなところでしょうか」


 時雨の言葉で、彼の顔はみるみる青ざめ、額には冷や汗が滲む。

 実はここに来る前、茨と待ち合わせをして追加で得た情報を教えてもらっていたのだ。

 哲夫が自宅以外にも家を持っている可能性もあると考え、昨日茨と電話した際にそちらも調べてほしいと頼んでいた。その予想は大当たりで、茨が懸命に調査したところ、見つけた別荘には助けを求める痩せ細った少女たちがいたという。
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