純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「あなたの人間性は卑劣極まりないが、優秀な人材を手に入れていたことだけは評価に値します。安心してください、この会社を引き継げる者はちゃんとおりますから」
わずかに口角を上げ「それと」と続けた直後、すっと冷徹な表情に戻し、瞳の鋭さを増して強く戒める。
「金輪際、睡に会おうなどとは考えるな。もし姿を現したら、私が制裁を与える。それを頭にしっかり刻んでおいてください」
時雨の表情や声色から露わになる凄みに、哲夫は目を見開いて絶句していた。
しばらくして警察が到着し、哲夫はさほど抵抗することもなく連れられていった。残された社員や、時雨が手に入れた技術者と今後の対応について話し合い、てんやわんやの一日が過ぎていく。
この日は近くに宿を取って一泊した。布団に入って眠りにつくまでの時間も、東京に戻るまでの長い道のりの間も、頭の中を巡るのは家で待たせている彼女のこと。
あの子はようやく、父親の人形でも花魁でもない、普通の女性に戻れた。これからどんな生き方を選択するかは彼女の自由だが、時雨はすでにあるひとつの決意を固めている。