純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 その寛大すぎる心に感動して打ち震えるが、本当に結婚に踏み切っていいのだろうか。一大企業の社長と元花魁の自分では、あまりに釣り合わない。


「でも……時雨さんにとって賢明なことだとは思えません。あなたほどの方には他に相応しい女性がたくさんいるはずです。私なんかと一緒になったら、世間になにを言われるか」

「君の身分や生い立ちで非難する者がいたら、それは立派な差別だ。俺はそんなものに惑わされずに、自分が守りたい人を妻にする」


 一片の迷いもなく堂々と返され、睡は唇を結んだ。

 時雨が結婚しようとしているのは睡に対しての同情や責任感からではなく、〝守りたい〟というちゃんとした己の意思があるからだと感じ取れる。

 胸が、焼け焦げそうなくらい熱い。


「どうするかは睡が決めろ。君はもう自由なんだから」


 その言葉にはっとする。睡自身の意思で決めていいと任せられたのは初めてに近い。

 時雨は意地悪で強引かもしれないが、必ず睡の心を気遣い、気持ちを尊重してくれる。こんなにかけがえのない人が差し伸べる温かい手を、どうして振り払うことができようか。
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