純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
「……私、本当に時雨さんの家族になっていいんですか?」
潤む瞳で見上げて確認すると、彼は〝何回聞くのだ〟と言わんばかりに呆れた笑いをこぼして頷く。
睡は泣きそうにならながらも破顔し、「嬉しい」と本心を吐露して婚姻届を胸にそっと抱きしめた。
ずっと、家族と暮らす人並みの生活に憧れていた。これからそれが現実にできるかもしれない。なにより、他の誰でもない時雨と新しい関係を作っていけることが、心から嬉しかった。
うっすら涙を浮かべつつ笑顔の花を咲かせる睡を、時雨は意外そうに目を開いて見つめる。驚きを含んでいたその瞳は次第に細められ、柔らかな笑みが生まれた。
喜びに浸る睡に、ふいに手が伸ばされる。それは頭に触れ、時雨の胸へと寄せられた。
額をこつんと当て、目をまん丸にして固まる彼女の耳に「睡」と呼ぶ声が響く。
「これからはつらさも喜びもすべて分け合って、共に生きよう」
頼もしいひと言で、睡の脳裏に浮かぶ未来が一気に鮮やかに色づいた気がした。
愛し合った末の結婚ではない。けれども、ふたりの間には特別な絆が生まれている。
どんなことがあっても添い遂げようと一蓮托生の覚悟を決め、睡は瞼を閉じて「よろしくお願いします」と応えた。