純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
数日後、必要な書類が用意できたふたりはさっそく婚姻届を提出した。
いまだに外国のように感じる街を時雨と並んで歩くだけで不思議な感覚なので、夫婦になったという実感を得るには時間がかかりそうだ。
本人たちよりも周りの人間のほうが盛り上がっている。結婚記念日となった今日は、菊子が腕によりをかけてごちそうを用意していた。
和洋折衷の品々をダイニングテーブルにずらりと並べる菊子は、先ほどからずっと頬を紅潮させてうっとりしている。
「睡様が身請けされたのだとお聞きして、やはりおふたりはお熱い仲だったのだと確信しておりました。時雨様が遊郭に通われていたのはシマウマがワンワンと鳴くくらい意外でしたが、それも睡様にお会いするためだったのですね!」
「半分誤解だ、菊子さん」
興奮している菊子に、時雨は苦笑を交えてやんわりと訂正した。
睡が吉原にいたことは彼女自身が打ち明けていたのだが、いつの間にか時雨が遊郭に通っていたことになっている。色好みだと勘違いされては癪だろう。
しかし菊子には強く言えない時雨を見て、睡はくすくすと笑った。