純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「今夜はささやかながら祝宴といたしましょう。そろそろ茨様もお見えになるかと……」


 菊子が言いかけたときちょうど呼び鈴が鳴り、客人がやって来たことを知らせた。

 時雨が会社関係よりも先に結婚すると知らせたのは茨で、招待したわけではないのに今夜祝いに来る気満々だったという。時雨は面倒くさそうにしていたが、睡は彼の友人である私立探偵に会えるのを楽しみにしていた。

 菊子と一緒に玄関ホールへ向かうと、カンカン帽を被りとんびコートを羽織ったお決まりの姿の茨が、片手に風呂敷の包みを抱えて現れた。


「どうもこんばんは~。そしてご結婚おめでとう~!」


 入るなり歓声を上げる茨に、時雨は「うるさい」とぼそっと呟く。菊子と睡は、明るい客人を笑って出迎えた。

 茨は帽子を取り、少し上体を屈めて小柄な睡に目線を合わせる。


「君が時雨の奥様か」
「はじめまして、睡と申します」
「会いたかったよ、睡ちゃん。俺は時雨の大親友の茨。よろしくね」


 愛嬌のある笑顔でとても気さくに片手を差し出す彼に、睡は人当たりのよさを感じて快く握手をした。

 眉をひそめる時雨はすかさず「大親友?」と繰り返すが、茨はお構いなしに風呂敷の包みを開けて中に入っていたものを手渡す。
< 89 / 247 >

この作品をシェア

pagetop