純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
早朝、警察によって亡骸が運ばれる様子を目の当たりにした睡蓮は、気が遠くなるのを感じながら地べたに崩れ落ちた。
つい数日前に、大地主だという中年男性が玉響を身請けしたいと願い出たばかりだった。多額の金を見世に納めた者が、自分が指名した花魁を遊郭から出すことができる。
それ以外で遊郭から出るには、年季が明けるのを待つしか方法はない。玉響は、この世界から抜け出せるはずだったのだ。
それなのに、なぜ。
皆が抱いた疑問であったが、睡蓮にはすぐにわかった。好いてもいない男性のものにされるくらいなら、死を選んだほうがよっぽどよかったのだと。
物々しい様子を遠巻きに眺める野次馬の中で、夜着が汚れるのも構わずへたり込む睡蓮の頭の中には、昨夜最後に見た姉の姿と声が蘇る。
『睡蓮、身請けしたいって人が現れたら、あんたは迷わずにその人のもとへ行くんだよ。そのほうがきっと、幸せになれる』
美しくも切なげな笑みを浮かべる彼女は、妹女郎の手を温かな両手で握り、『幸せにおなり』と、もう一度告げた。
そのとき、玉響が身請けを望んでいないことに気づいただけでなく、ただ事ではない雰囲気を感じ取っていたものの、それが最後だなんて思わなかった。まさか、もう二度と会えなくなってしまうなんて。