純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「それにしても、まさか時雨が結婚するとはね。あいつは心底睡ちゃんを手放したくないみたいだ」


 ふいにそんなふうに言われ、睡はやや複雑な心境になる。茨がもし恋愛結婚だと思っているなら、実際はそうではないから。


「手放したくないのは、時雨さんも家族が欲しかったからじゃないでしょうか」


 自分と同じく天涯孤独な時雨は、どこかで家族を求めていたのかもしれない。だからこそ、妻としてそばに置いておける存在が必要だったのではないか。

 睡はそう考えているが、茨は意味深な笑みを浮かべる。


「それも間違ってないだろうけど、もっと別の理由があると思うな。ねぇ、菊子さん」
「ええ。時雨様には過去に何度か縁談のお話がありましたが、お写真を見るまでもなくお断りされていましたし」


 話を振られた菊子は、水ようかんをテーブルに置きながら少々いたずらっぽく返した。

 それに対し、睡は「そうだったんですか?」と驚いたものの、縁談が持ち上がるのは大企業の息子ともなれば当然かとすぐに思い直した。とはいえ、写真も見ずに断っていたとは意外だ。
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