純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
菊子は茨の隣に腰を下ろし、穏やかに語り始める。
「上流階級の家ほど親に決められて結婚するのが当たり前で、今もまだその風習は続いています。ですが、明治の頃は離縁する者も多く、跡取りの子を授かるまでは婚姻届を出さない人たちもいたとか」
睡は眉をひそめる。結婚は家と家でするものだとよく聞くが、当人同士の気持ちがないがしろにされているのはいいことだとは思えない。
神妙な顔で耳を傾ける睡に、菊子は優しく微笑みかける。
「時雨様のご両親が亡くなられたのは残念ですが、こうして自由な結婚ができるのは幸せなことだと思います。お子様についてもゆっくり考えられますしね」
菊子の話に共感していたものの、最後の言葉の意味を理解すると急激に恥ずかしくなる。子供のことなど頭になかったが、夫婦になったのだから跡取りを残すのも立派な妻の役目だ。
「お子、様……」と呟いて顔を赤くし、しおしおと俯いていく。そんな睡を見て、茨はぷっと噴き出し、無邪気に笑った。
「睡ちゃんって、遊郭にいたのが信じられないくらいうぶだね。きっと花魁の衣裳より白無垢姿のほうが似合うんだろうな」
白無垢と聞いて、睡の脳裏に一瞬玉響の最期の姿が過ぎった。