純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
生前、玉響と〝花嫁になって白無垢を着てみたいね〟と話した覚えがある。
昔は八朔という八月一日にだけ、遊女も白無垢を着て花魁道中をする習わしがあった。しかし、今ではその風習もなくなり派手な着物しか着なくなったので、玉響も睡も清純な色に憧れがあったのだ。
玉響が亡くなったときに纏っていた白い袷が神聖なものに見えたのは、そのせいもあるのだろう。
「白無垢、素敵ですよね。でも……」
睡の笑みがやや曇った。憧れはあれど、実際に着るのは少し躊躇する。
白無垢は誰にも染まっていない純潔な娘が着るもの。睡も処女ではあるが、遊郭で数多の男と関わっていた自分にはどうしても相応しくない気がしてしまう。そもそも、結婚式自体してもいいのだろうか。
「式は挙げることになるんでしょうか」
「まあ、時雨ほどの地位にある人は、お披露目の意味でも結婚式は避けられないだろうね。そもそも、式より先に婚姻届を出してるほうが珍しいよ」
「私もぜひ拝見したいですねぇ。睡様の花嫁姿」
茨に続き、菊子がまたうっとりとした顔で同調した。
やはり自分がどんな生い立ちであれ、式は挙げなければならないらしい。だとすれば、皆に認めてもらえるくらい、時雨の隣に並んでも恥ずかしくない女になりたい。