純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
少しでも釣り合うにはどうしたらいいだろうかと考えていると、その彼が電話を終えて戻ってきた。ちょうどひとつの案が浮かび、睡は隣に来た彼をばっと見上げる。
「時雨さん、私も働きたいです!」
「え?」
突然の宣言に、時雨だけでなく茨たちも目を丸くした。
時雨に釣り合うのは、地に足のついた女性ではないか。そうでなくても、なにもせず世話になりっぱなしでいたくないと思うと、外で働きたい意志がみるみる強くなる。
「もちろん妻として家の仕事も覚えていきますけど、菊子さんもいますし、なにか他の部分でお役に立ちたくて」
「仕事か……」
時雨は腰を下ろしながら思案する。
女性が家庭を守るべきだという考えはまだまだ根強いが、大正時代から社会進出を果たす女性も増えてきている。心英社の工場でも女性は立派な働き手であるし、労働するのはなにも咎められることではない。
「家のことなら私にお任せください。まだまだここでお仕えしていたいですから」
菊子が茶目っ気のある笑顔でふたりに声をかけた。
彼女の気遣いを睡がありがたく感じていると、茨がなにかを思いついたように身を乗り出してくる。