純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

「じゃあさ、俺の相棒になるってのは──」
「断固拒否」
「早っ」


 即行で却下する時雨に、茨は口の端を引きつらせた。茨に構わず、時雨は睡に向かって口を開く。


「睡に意欲があるなら、無理せず働ける場所を探してみよう」


 探偵の仕事にもちょっぴり興味はあったが、時雨が提案する場所なら安心だと、睡は笑顔で「ありがとうございます!」と礼を言った。


 しばし食後の茶を楽しんだあと、茨はひと足先に九重邸をあとにし、片づけを終えてから菊子も帰っていった。

 風呂に入った睡は、ぽかぽかした身体で時雨の部屋に向かっているのだが、入浴しただけで火照っているわけではない。帰り際に茨にかけられた言葉のせいだ。


『今夜はふたりの大事な大事な新婚初夜だね』


 含みのある笑みを浮かべて言われ、そういえば今夜は夫婦になって初めての夜だと気づいた。すっかり頭から抜けていたが、一般的には契りを結ぶ重大な日なのである。

 睡は居候させてもらってからずっと時雨と同じベッドで寝ているため、特に初夜という感じもしないが、やはり儀式的に行為をしなければならないのだろうか。
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