純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 かなり意識してしまい、ぎくしゃくした動きで寝室のドアを開けると、時雨はベッドに座って本を開いていた。ページをめくる指先も、伏し目がちな瞳も、なぜか一段と艶めかしく見える。

 とりあえず気を紛らわせるために、睡はなにげない調子で口を開く。


「今日は楽しかったですね。菊子さん、あんなにごちそうを作ってお祝いしてくれて。茨さんにもお会いできて嬉しかったですし……」


 話しながら時雨の隣に腰を下ろした直後、パタンと本を閉じた彼の瞳に捉えられた。妙に熱っぽい視線が絡み、大きな手が長い髪をそっと掻き上げて頬に触れる。

 官能的な雰囲気を感じ、睡の心拍数がみるみる上昇していく。


「君の家に柿の木はあったか?」


 ところが、なんの脈絡もなく柿の話を切り出され、面食らった睡はぱちぱちと目をしばたたかせた。


「か、柿の木? あー……あった気がします」


 なぜそんなことを聞くのか不思議に思いつつ昔の記憶を引っ張り出すと、本当の父と母と三人で暮らしていた頃の家の庭で、橙色の実をつけた木を見た覚えがある。そのまま食べた記憶はないので、おそらく渋柿だったのだろう。
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