純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―

 目線を斜め上に向けて思い出している睡に、時雨はくすっと笑い、さらに問いかける。


()はよく生ったか?」
「まあまあ、ですかね」
「じゃあ、それを俺がもいで食べても?」
「たぶん渋柿なのでやめたほうが……ってなんですか、この会話は。そしてなぜ笑っているんですか?」


 俯いて肩を震わせる時雨を、睡は奇妙な目で見ながら問いかけた。こんなに失笑する彼は珍しいし、いよいよ話の意図がわからなくなってきた。

 困惑する睡に、時雨は笑いを堪えて言う。


「君が今〝食べていいですよ〟と答えていたら、俺に抱かれるところだったぞ」


 真顔になった睡は、数秒の間を置いて「はっ!?」と声を裏返らせた。急激に顔が熱くなる。


「だ、抱かれるって……!」
「柿の木問答も知らないんだな。面識がなく結婚したふたりが初夜に挑む際に困らないように、お決まりの会話が昔から用意されているんだよ。これから身体を重ねる合図のようなものだ」


 説明を聞くと、どうやら夫が〝もいで食べてもいいか?〟と問いかけ、妻が〝いいですよ〟と答えたら性行為に合意したことになるらしい。嫁ぐ娘にはそれを伝えられるそうだが、噂すら睡のもとには回ってこなかった。
< 97 / 247 >

この作品をシェア

pagetop