純潔花嫁―無垢な新妻は冷徹社長に一生分の愛を刻まれる―
今この瞬間まで信じられなかった。触れられて嬉しい──そんな感情が自然に湧いてくるなど。
茹で蛸のように赤くなっているであろう顔を見られなくてよかったと思いながら、言葉にはできない嬉しさを表すように、回された腕にそっと手を重ねた。
お互いの存在を確かめるようにしばらくそのままでいたあと、緊張が落ち着いてきた睡は「あの」と声を発する。
先ほど茨たちと話していて感じたことを本人に聞いてみたい。
「時雨さんも、天涯孤独だったから家族が欲しかったんですか?」
「いや、別に」
片腕で睡を抱き、もう片方の手で自身の頭を支える格好で、時雨はほんの数秒考えてそう答えた。予想とは違った答えで、睡はぽかんとする。
「そんなふうに考えたことはなかったが、睡と会ってから自然に夫婦になるのもありだと思うようになった」
穏やかな声色で続けられた言葉に、心の奥からじわじわと熱を帯びる。
(今、さらっとすごいことを言われた気が……)
端から見合いする意欲もなかった彼が、自分と出会ったのがきっかけで結婚を意識するようになった。それはとても運命的ではないだろうか。