この恋が手遅れになる前に
「それなら今夜奏美さんの部屋に泊まりたいです」
「あの……それは……」
突然そんなことを言われても困る。本当に人に見せられるほど綺麗にしていないし、涼平くんが泊まるということはきっと昨夜みたいなことになる。それはもう引き返せないことになってしまう。
「涼平くん、もうやめよう。こんな風に会うのは」
「…………」
目を見開いて驚く彼から目を逸らさないように必死に顔を上げる。
「昨日はごめんなさい。お互いもう元に戻ろう」
「俺が忘れさせるって言ったじゃないですか」
「そうなんだけど……」
「奏美さんの中には今も部長がいるのは知ってます。それでも俺はあなたのそばにいるって言いました」
「うん……でもやっぱりよくないよこんな関係は」
「こんな関係って?」
「中途半端で」
章吾さんの代わりにはできない。涼平くんの気持ちを利用したくない。
「別れたいってことですか?」
別れる? やっぱり私たちは付き合っているということになっていたの?
「そう、別れよう」
「無理です」
涼平くんは今にも泣きそうな顔で言う。
「今更なかったことにはできないです。昨日は俺の腕の中で乱れといて、そんな残酷なことはない」
握られた手がわずかに震えている。涼平くんを傷つけているのはわかっている。拒否しなかった私だって悪いのに、一方的に終わらせようとしている。
「奏美さんが俺に気持ちがなくても、この声も体も共に過ごす時間も、全部俺のものにしたい」
「涼平くん……」
「部長と別れたばかりで気持ちの整理がついてないのは知ってます。だからこそ付け入ろうとしてます。俺はそれを隠しません」
涼平くんは私の手を掴んだまま顔まで持っていくと、手の甲にキスをする。
「っ……」