この恋が手遅れになる前に
そう言った瞬間涼平くんの顔がパッと明るくなる。
「ありがとうございます」
本当に嬉しそうに笑う。まだ好きだとも言ってないし、向き合うと言っただけで好きになる可能性はないかもしれないのに。
私の言葉の一つ一つで表情が変わる。こういうところは子供っぽいなと思う。
「じゃあ家に入れてください」
「調子に乗らないの。絶対入れない」
涼平くんは「ちぇっ」と拗ねる。急かさないでと言ったのに家に入れたらこの子は何をしてくるか分からないのだから。
「仕方ない……今日は帰ります。奏美さんを困らせるつもりはないんで」
爽やかに笑う涼平くんに呆れる。どこが『困らせるつもりはない』というのか。やっと私の手を放した涼平くんの顔は街頭の明かりに照らされてより一層色気がある。
「奏美さん、おやすみなさい」
「おやすみ……」
そう挨拶したのに涼平くんは離れようとしない。
「どうしたの?」
「キスしてくれないんですか?」
「は?」
「恋人とデートの終わりはキスして別れるものですよ」
女性経験がなかったのに、なんて生意気な言葉だ。恋人とは言えないしデートのつもりもなかった。でも涼平くんは待っている。私からキスするまで帰るつもりはなさそうだ。
仕方なくつま先立ちになって涼平くんの頬にキスをした。
「まだほっぺにしかしてあげない」
「っ……」
意地悪く言うと涼平くんは顔を真っ赤にして私がキスした頬に手を当てる。
「昨日は俺の部屋でもっとすごいことしたのに?」
「もう勢いで涼平くんとそういうことしないって決めたから」
私が思う以上に涼平くんは私に本気だ。だったらこちらも真剣に向き合わなければ。
「こんな可愛いことされたら俺が耐えられるか自信がありません……童貞卒業したばっかなんですけど」